「ん〜ヒマー!!」

ソファーに座って読んでいた料理雑誌を横に置くと、両手を頭の上に伸ばして大きく伸びをした。
前に八戒が暇な時読めるようにって何冊か雑誌を買ってきてくれたんだけど、雑誌とはいえ書いてある文字は中国語。
さっぱり内容がわからない。
でも料理の本なら写真がいっぱい載ってるし、大抵の言葉は漢字でわかるから最近暇な時はよく料理雑誌を読んでいる…まぁ眺めてるっていうのが正しいのかもしれないけど。

八戒は朝から町内の集まりだって言って出掛けてしまった。
帰るのは早くて夕方だと言ってたなぁ…それまで何してよう?

何もすることが無いとやたら眠くなってくる。でも寝たらこっちには居られないから何度もあくびをしながら一人ソファーでごろごろしていた。

「あ〜らら、でっけーアクビ…」

「ごっ、悟浄!?」

突然目の前に現れた悟浄はいつもならTシャツ一枚のはずなのに、今日は珍しく黒いジャケットを羽織っている。
それを見て、あたしの中の何かがそれに反応した。

「悟浄、何処か遊びに行くの?」

「あ?…あぁ、まぁちょっと行くトコがあって…ナ。」

「あたしも行っていい?」

いつもなら家で大人しくしている所だけど今日は退屈で退屈で、悟浄までいなくなったらあっという間に向こう(現代)に帰ってしまいそうだ。
それじゃぁつまんない。
あたしが外に出たいと言ったのがよっぽど珍しかったのか、悟浄はピタリと動きを止め、くわえていたタバコが不安定に揺れている。



そんなに…珍しかったかな?



全く動かない悟浄に不安を覚え、ジープが首をかしげる様に少しだけ首を傾けてじっと悟浄の目を見つめた。

「…ダメ?」

悟浄の台詞をドキドキしながら待ってると、やがてちょっと困った顔をしながらあたしの頭を撫で始めた。

…これってダメって事?

「一緒に行くか。八戒には書置きしときゃいいだろ。」

そういうと悟浄は新聞に挟まっている広告を抜き出すと、その上にマジックで八戒への書置きを書き始めた。

悟浄…せめて裏紙白いの使おうよ。
野菜の写真やお肉の写真が写っている広告の上に書かれた文字は、殆どが印刷にかかっていてあたしには解読が難しい。
でも二人にとってはこれが当たり前なのかな


「これでOKっと…チャンもう出れるか?」

「あ、うん。」

いつも持ち歩く小さなカバンを手に持つと戸口に立っていた悟浄の所へ急ぐ。

「じゃ、行くか…お姫様?」

「お?お姫様!?」

突然のお姫様発言に思わずビックリして顔が赤くなってしまった。
まさかそんな風に言われるなんて思わなかったから…。

「今くらいオレだけのお姫様でいろよ…ナ?」

あたしの頬に手を置いて悟浄が真剣な眼差しでそんな事言うから…思わず首が千切れそうなほど前後に振ってしまった。
その後、差し出された悟浄の腕に少し照れながらもそっと右手を絡め、ようやくあたしと悟浄は家を出た。





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